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ボトックスで治す片頭痛
ボトックスで治す片頭痛 (2万1千円より)
はじめに: 頭痛の治療にはさまざまなものがあります。当院の医師は、アメリカで脳外科と形成外科の専門医過程を修了しました。ここでは、「ボトックスと片頭痛」の関連に関してだけ、述べてあります。このページは、内容的にも、当ウエブサイトのほかのページより、難しい、とっつきにくい部分が多くなっています。簡素化することもできるのですが、片頭痛の患者さんは、長年にわたって、いろいろな治療をうけ、病気や薬のことにも詳しい方も多いと思います。そうした方々へも、十分納得できるような説明ができるように、あえて簡素化せずに、専門的に書かせていただきました。内容的に「難しすぎる」と感じる方は、わかる部分だけでもご覧ください。
ボツリヌス菌の毒素(米国商品名Botox、ボトックス)が美容上の目的で主に顔のしわ、とくに眉間、額、目尻のしわに広く使われているのはよく知られています。最近では、その使われ方がさまざまな方面で応用されてきており、例えばえらの張りを縮小したり、Gummy Smile(笑うと歯茎が見える状態)の治療にも用いられています。また顔以外ではわきの多汗症にも使われています。しかし、Botoxの効用はこれだけではなく、古くは目の周りの筋肉がぴくぴくとなる状態(眼輪筋痙攣)や小児麻痺やその他の脳損傷後におこる四肢の硬直状態にも用いられてきました。
ここ5−6年、美容目的で、顔面にボトックスが使われた患者さんの中に、偶然なのですが、頑固な片頭痛がよくなったという報告が、数多く見られるようになってきました。いまこのことに関して、さまざまな仮説が唱えられていますが、現在米国食品医薬品局(FDA)のもとで臨床治験が行われています。片頭痛は全米で患者の数が、2千8百万人くらいいるといわれています。男性よりも女性に多くみられ、患者さんの多くは毎日強い内服薬を飲み、なんとか社会生活を営んでいますが、中には副作用で薬が飲めなかったり、仕事ができなかったり、あるいは薬が効かない場合も多々あると言われています。これまでわかっていることは、眉間のしわに関係する筋肉にボトックスを注射した場合、とくに顕著に頭痛軽減の効果が見られるようです。これ以外にも側頭部、後頭部あるいはえらの筋肉への注射でも軽減するケースが報告されています。米国の報告では、50−80%の患者さんにみられるということです。
ではどうしてボトックスが頭痛に効くのでしょうか?今言われていることは3つほどあります。1つは、トリガー・ポイント(Trigger Point)といって、眉間の筋肉にピンチされた三叉神経(感覚神経)の末端が、ボトックスによってリラックスするためと言う説。2つ目は、痛みの神経の末端に作用して緩和するという説、そして最後に、注射部位から逆行性に脳内の神経に影響を及ぼして、痛みをコントロールすると言う説などです。しかし、本当のメカニズムは、まだよくわかっていません。ただ、頭痛の患者さんにとっては朗報で、少量のボトックス治療で、6ヶ月間くらい頭痛が押さえられるかもしれないという、新しい治療オプションができたということです。このサイトでは、頭痛のメカニズムの説明の後、ボトックスが実際にどういう風に治療に使われているかを、くわしく説明していきます。なお、このサイトに使われている科学データは主に米国を含む英語文献からのものです。
頭痛について
頭痛にもいろいろな種類があって、専門書もたくさん出ているのですが、ここではボトックス治療が欧米で使われているタイプの頭痛、つまり片頭痛と緊張型頭痛について簡単に述べたいと思います。また、私たちがアメリカで教育を受けた医師である関係上、統計上の数値などは主にアメリカのものを使っています。
片頭痛は慢性の神経血管性疾患で、全世界人口の2−15%を占めるといわれています。米国では2800万人の患者が存在し、女性の方が男性より3倍も多いという統計があります。典型的な症状としては、発作が4−72時間くらい持続するのですが、頭の片方だけに、ずきずきするようなひどい頭痛に、吐き気、嘔吐を伴ったり、痛みのひどいときに音や光によって、さらに増悪する傾向があります。またAuraアウラと呼ばれる前兆が、文字通り頭痛の前に来ることもあるし、発作後に来ることもあるし、ない場合もあります。これ以外にも発作の1−2日前くらいから見られる症状があります。たとえば疲れやすくなる、集中力が落ちる、視力が落ちる、あくびをする、あるいは顔面蒼白になるなどです。片頭痛はさまざまな理由でてんかん、四肢麻痺、精神病や認知障害よりも障害度が重いという考え方もあります。片頭痛はいわゆる血管性の頭痛に属し、その原因はもともと頭の血管が拡張しすぎたために起こると信じられています。しかしこれだけでは、どうしてボトックスが作用するのか説明できないため、後述するさまざまな説が現在出てきています。
片頭痛を持っている人の多くは、社会の第一線で働いている20代から50代の年齢層で、この病気による社会的損失は無視できないものがあるといえるでしょう。経済的な損失ということでは糖尿病と同じくらいで、喘息よりも大きいとさえ言われています。片頭痛を抱えている患者さんのなかには、現在の治療に満足されていない方も多いですし、処方されたお薬も必ずしも効果的でない場合もあるのです。トリプタン(Triptan)という片頭痛によく効くといわれている薬でさえ、痛み以外の症状(光過敏、吐き気)などには効果を示さないことがままあるのです。片頭痛の患者さんの3人に1人は一月に2−3回の発作にみまわれ、4人に1人は毎月4回以上の発作を起こすといわれており、今以上に効果的な治療方法がどうしても望まれるところなのです。また、慢性的な重度の片頭痛が頻繁に起こる患者さんは、予防治療が必要でしょう。
現在、そうした予防治療が次のようなガイドラインに沿って行われています。一つは頻繁な頭痛、そして日常生活に影響を及ぼすような頻繁な片頭痛、既存の治療方法、治療薬が無効か副作用がある場合、治療費用に問題がある場合、患者さんの希望、非定型的な症状を伴う場合、などとなっています。ただし現在使われている予防治療はいろいろ副作用のあるものも多く、簡単にだれでも使えるというものではありません。そうした予防薬の中で例えばベータ・ブロッカーといわれる種類の薬は、疲れやすくなる、ぼーっとする、眠くなる、睡眠障害やうつ状態などが副作用として知られています。カルシウム拮抗薬は便秘、むくみ、体重増加などが知られており、3かん系の抗うつ薬ですと眠気、体重増加、口内乾燥、便秘、めまい、動悸、精神混乱、視力障害、などが知られています。抗てんかん薬も予防薬として使われるものがありますが、吐き気、胃腸症状などが知られた副作用としてあります。こういう風に現在使用されている予防薬は副作用も多く、効果も限られているため、新たな予防治療がそうしても望まれているのです。
緊張型頭痛は、実は、いわゆる頭痛の中では一番多くみられるものです。この中にもさらに細かい分類があるのですが、簡単に言うと血管性の頭痛ではなく、たとえば頭の後ろの方から、なんとなく重いとか、つっぱるとかいう表現で示されるものから、明らかに痛みが走る感じのものまであります。肩こりを伴うこともよくあります。頭痛のないときでも、指で抑えると、痛みのポイントがある患者さんもたくさんいます。また、後頭部でなく側頭部に痛みがある場合もあります。本当の原因は、いまのところまだわかっていませんが、この種の頭痛には理学療法や運動療法のほか、重症例では抗うつ剤も用いられることがあります。しかし、上記のように、副作用が問題となることもあります。ボトックスはこの種の頭痛にもよく効くことが証明されつつあります。
最後に、「頭痛」の治療を論じる前に確認しておかなければならない事があります。つまり、ここでいう片頭痛や緊張型頭痛などは、すべて、神経医学の専門医による診断が前提です。たとえば、ただ頭痛といってもいろいろなものが含まれています。今まで述べてきた頭痛は、専門的には、機能性頭痛といわれるものですが、他にもストレス、精神的なもの、公害、薬の副作用などでも起こるでしょう。この他、症候性頭痛といわれるものがあります。これは例えば脳腫瘍があったり、脳の中に水がたまったり、脳に感染や炎症があってもやはり頑固な頭痛が起こるのですから、頭痛もちの患者さんはまず第一に神経の専門医によく診察してもらい、適切な検査をして、そうした重篤な他に頭痛を起こす状態を除外してもらう必要があります。とくに形成外科医や皮膚科医は、実際にボトックスを使う機会が多いわけですから、頭痛の患者さんが来たからと言って、簡単に、診察も検査もしないで、ボトックス治療を「頭痛」に用いるべきではないと私たちは考えます。
ボトックスの登場
2000年に入り、米国で、ボトックスが片頭痛や他の頭痛の治療薬として、臨床治験されるようになりました。この薬はそれより以前の20年間に渡って、さまざまな筋肉の疾患(不随意収縮や拘縮など)に使われてきました。そして現在眼輪筋痙攣、頸部ジストニア、それに美容目的に、眉間のしわの治療およびわきの多汗症にもFDAで認可されました。このほか顔全体の表情筋によってできるしわ(額、からすの足跡)、ガミースマイル(笑うと歯茎の見える状態)、えらの張った筋肉の改善、首のしわなど、あるいは脳疾患後の四肢のこわばりなどにも使われています。
ボトックスをはじめとするA型ボツリヌス菌毒素の鎮痛効果は、実はもうかなり前より前述のジストニアとか筋拘縮の治療中にわかっていたようです。こうした事実があって、その後片頭痛や筋緊張性の頭痛の治療にも応用するようになってきたという一面もあります。アメリカでは日本と異なり、A型ボツリヌス菌毒素が主流で(ボトックスのこと)すのでこのサイトではA型ボツリヌス菌毒素についての治療応用、予防治療さらに具体的な治療例について述べていきたいと思います。
ボツリヌス菌毒素(ボトックス)の作用
美容のページでも書きましたので重複しますが、ボツリヌス菌毒素はClostridium botulinumという細菌が作る毒素です。
この細菌は空気のない環境で育つ細菌で、外毒素といって外に毒素を放出していきます。この細菌の毒素にはA, B, C-alpha, C-beta, D, E, F, Gと、タイプの異なる7種類に分けられます。この毒素は神経細胞内で作用するのですが、おのおのがターゲットとするものが違うので、いくつもの種類に分かれています。A型ボツリヌス菌毒素は神経の末端部分でシグナルを送ることが出来なくする作用があります。まず小さな針でA型ボツリヌス菌毒素を治療部位に注射すると、これが神経内に入っていきます。そして細胞内の特殊なタンパクに作用して、神経伝達物質のアセチルコリンという物質が外に出れないようにしてしまいます。AからGまで異なるタイプがあるのは、それぞれブロックするタンパクの種類が異なるためです。アセチルコリンがないと神経から筋肉へシグナルが伝わらず、結局筋肉が収縮できなくなってしますのです。こうした効果が出るのに24−48時間かかり、その後2−3週間で効果のピークがおとずれ、4ヶ月くらいで徐々にまた効果が薄らいできます(長くて6ヶ月くらい)。
ではこうして筋肉を緩めることが、どうして頭痛の緩和につながるのでしょうか。実は最近のいろいろな臨床報告を見てみると、ボトックスは単に筋肉の収縮をおさえるだけでなく、神経自体にも作用していることがわかってきたのです。例えばボトックスは、筋肉から中枢神経にさかのぼっていくフィードバックのルートを調節し、筋肉の中にある筋紡錘体というものの活動を抑えるといわれています。また脊髄や末梢神経で、痛みに関係しているグルタミン酸の放出を抑制し、ひいては脳内の痛みに関するニューロンの活動を抑えているという報告もあります。こうした痛みに関するシグナルの抑制が、末梢および中枢でも見られることが、片頭痛やその他の頭痛の症状緩和に関係しているという研究結果が、欧米では数多くみられます。
実際の症例としては、ボトックスは筋肉を弛緩させるのに48時間くらいはかかるのですが、頭痛の場合ボトックス注射直後から頭痛がよくなる患者さんがいるのです。これは一つにはプラシーボ効果(患者さん自身が効くと思い込んでしまっている)か、実際に神経に直接効いているということでしか説明が出来ません。以上以外にもボトックスがどうして頭痛に効くかという説には、例えば、片頭痛には血管の炎症が関係しているとされていますから、炎症に関する神経の反応も抑えているとか、他にもまだあるのですが、専門的になりすぎますのでここではこれ以上は触れません。
臨床報告
そもそもボトックスが頭痛に効くのではないか、という最初の報告は、おそらくUCLAのビンダ−博士らが2000年に発表した論文にみることができます。かれらは美容の目的(顔面のしわ)でボトックス治療を受けていた患者の中に、片頭痛の症状が緩和されるものがいることに気づきました。そしてかれらはいくつかの病院とともに、より多くの患者に対してボトックスと片頭痛の関係を探りました。効果の判定は頭痛の完全消滅、痛みや頻度が50%以上軽減、そして効果なしに分けて行われました。その結果、51%の患者さんで頭痛の完全消滅がみられました。ボートックスの治療間隔は4ヶ月程度でした。残りの患者さんの38%は平均2.7ヶ月間、ある程度の頭痛の軽減が見られました。
この報告に引き続いて、多くのボトックスの頭痛治療に関する臨床報告が発表されてきました。詳しい臨床報告の内容は以下に紹介しますが、50%−80%以上の患者さんが何らかの症状軽減を示したという報告内容となっています。またその後の多くの研究で、片頭痛の予防にもボトックスが効果的だということ、さらには筋緊張性の頭痛や既存の治療が効かない頭痛にもかなり効果のあることがわかってきています。ただしこれらの臨床報告の多くは、Retrospectiveといって、あとからいろいろな臨床結果だけをまとめたものも多く、数も限られていたりして科学的な検証という意味では完璧なものではないかもしれません。
臨床報告の詳細
プラシーボを用いた治験
現在数は少ないですが、いくつかのコントロールを用いた治験が行われています。どうしてこうした治験が重要かというと、人間の身体は例えば水(プラシーボ)を入れた注射をして「頭痛の薬の注射をしましたよ」というだけで、何10%かの患者さんは症状が軽くなることがあるのです(プラシーボ効果)。従って医薬品の効能を確かめる際には、2重盲検法といって、プラシーボを用いた患者さんAグループと本物の薬を使ったBグループとの効果を、統計的に分析る必要があるのです。現在、大掛かりな治験は行われているようなのですが、これまでにも小さい規模ではありますが、いくつかのデータが発表されています。たとえばアメリカ・トーマスジェファーソン大学のシルバースタイン博士のグループは、123人の患者にそういう治験を行い(詳しくは次項参照)、統計的に有意な差が得られたと発表しています(2000年)。またバリエントス博士らは、2002年のアメリカ頭痛学会での発表の中で、同様の方法を用いて今度は片頭痛の予防効果を調べた結果、やはり長期の効果を治療グループで認めました。同様の効果はプラシーボグループでは認められなかったそうです。また他の鎮痛剤や頭痛薬の使用も減少したと報告しています。
アメリカ・マウントサイナイ医科大学のブリン博士のグループは、さらに同様の2重盲検方式にランダム化を加えました(2002年)。つまり56人の患者を、ボトックスを前頭部に打つグループ、側頭部に打つグループ、プラシーボを前頭部に打つグループ、同様に側頭部に打つグループにランダムに分け、その効果を検証しました。この結果もやはり有意な治療効果をボートックスグループに認めたのです。アメリカ・ベイラー医科大のオンド博士らは、同様のランダム化した2重盲検方式で、今度は慢性頭痛や慢性の筋緊張性頭痛の患者を調べた結果、長期にわたって治療グループにおいてプラシーボグループとは明らかに差のある治療結果を得ました。
ボトックスと頭痛に関する臨床データのまとめ
UCLAビンダ−博士
患者77人のカルテを調査した結果、51%の患者が頭痛の完治を報告。注射部位は眉間、前頭部、側頭部で、平均注射量は31単位。
NY州立大学マウスコップ博士ら
患者126人のカルテ調査、多くの患者が部分的あるいは完全な治療効果を経験。注射部位は眉間、前頭部、側頭部が多くの患者で、一部は痛みの走行にそった注射を受けた。使用量は25−200単位と幅広い。
デニー博士ら
患者48人のカルテ調査、患者はすべて慢性頭痛の罹患者で、過去に既存の治療に失敗している。86%の患者が何らかの効果を認め、35%はよい結果、27%は非常によい結果を報告。注射部位は眉間、前頭部、側頭部、それに後頭部の頭板版筋(頭の後ろ側から首にかけての筋肉)、あるいは痛みの走行に沿って注射。平均使用量は50−300単位。
ブラメンフェルド博士
患者271人のカルテ調査、慢性頭痛や筋緊張性頭痛などいろいろなタイプを含む、85.6%の患者が効果を認めた。注射部位は上記とほぼ同じ
ヒューストンのマシュウ博士
患者112人のカルテ調査、すべて慢性片頭痛の患者、繰り返し注射をすると(3回以上)、有意な頭痛の治療効果を認めた。注射部位は上記と同じ、注射量は50−100単位。
ニューヨーク州立大学ドッデイック博士ら
73人の患者に注射を行い結果を比較。61%の患者が頭痛の頻度の減少を認め、27%が頭痛の程度が軽くなったと報告。注射部位は前頭部、側頭部、鼻根筋、僧帽筋(首から肩にかけての筋肉)、後頭部の頭板版筋。注射量は25(一部100単位まで追加)。
以下はプラシーボをコントロールに用いた治験
チリのバリエントス博士ら
患者数30人、プラシーボグループと比較して非常に有意な差を認めた。注射部位は眉間、前頭部、側頭部、鼻根筋、僧帽筋、後頭部の頭板版筋。量は50単位。
トーマスジェファーソン大学シルバーステイン博士ら
プラシーボを使った2重盲検法(患者123人)、45%の患者が50%以上の改善を報告。注射部位は眉間、前頭部、側頭部で使用量は25単位か75単位
マウントサイナイ医大のブリン博士ら
プラシーボを用いた2重盲検法(患者56人)、頭痛の症状改善に統計的有意差を認めた。注射部位は前頭部と側頭部。
ベイラー医大のオンド博士ら
プラシーボを用いた2重盲検法(患者60人:慢性頭痛、筋緊張性頭痛含む)、10%の患者が驚異的な効果を報告、24%が顕著な効果を訴えた。注射部位は各患者によって異なり、痛みの走行に沿って行われた。注射量は200単位
(次の論文は注射部位を1箇所に限り頭痛に与える効果を検証)
オハイオの米国片頭痛センターのベーマンド博士ら
この研究では、注射部位を1箇所に限定した場合、片頭痛はどれくらいよくなるかということを調べました。ボトックスが単に筋肉の緊張を緩和して、トリガーポイントと呼ばれる刺激を受けやすい部分の治療に役立つだけでなく、もう一つの説、つまりボートクスを末梢の頭痛に関連している感覚神経どこに打っても効果がでるという説の検証を行いました。注射部位は眉間のしわを作る筋肉(corrugator)のみです。29人の片頭痛の患者に25単位のボトックスを注射。結果は2ヶ月の時点で83%の患者が何らかの効果を認め、半数以上は頭痛がなくなったと報告。この治験は患者数が少ないのが問題ですが、痛みに関係する末梢神経1本にボトックスが作用するだけで、多くの片頭痛が解消される可能性を示したという点では重要な論文です。
実際の症例
患者さんA: 30代男性。会社経営(個人)。最初はおでこの横じわが気になるとして来院。1回目のボトックス治療で長年持っていた頭痛がなくなったと報告。以後はしわのためというより、頭痛の治療のためにボトックスを使用しています。頭痛のタイプは、いわゆる緊張型と言われるもので、ボトックスの効果が切れてくる4−5月後ごろから後頭部が重いとかつっぱるとかいう表現で始まる症状が次第に頭痛へと変化していく。いわゆる痛みの走行による(圧痛点)部位を狙って注射してもよいのですが、この患者さんは最初におでこの注射で効果がてきめんに出たので、その後もおでこだけの注射を続けています。それまで長い期間服用していた頭痛薬を飲む必要がなくなり、頭痛のために仕事を休む必要性もなくなったと報告しています。ボトックスの使用量は20単位です。
患者さんB: 30代女性。事務職。この女性は、最初みけんの縦じわが気になるとして来院。初回のボトックス治療後すぐに、いままであった頭痛が消えたと報告、それ以後頭痛の治療としわの治療を兼ねて来院しています。頭痛のタイプは片頭痛。目の奥にキーンとするような刺激を感じるとともに、頭の前方から右側に向かって頑固なパルス性の頭痛がはじまるとのこと。カーテンを下ろして部屋を暗くしたり、吐き気を感じるときもよくあります。いままで神経内科で薬による治療を受けたこともあり、それなりに反応するのですが、ボトックス治療後は効果が6ヶ月近くあるとのこと。ボトックス使用量は7.5単位。この患者さんのように、通常のしわの治療結果と異なり(しわの場合は効果が出るのに2−3日かかる)、注射後すぐに頭痛の軽減がみられる患者さんは他にもいます。
患者さんC: 20代女性。学生。えらが張っているので何とかして欲しい、という相談で来院。始めは、えらの骨を切りたいなどと言っていましたが、検査の結果、えらの筋肉が非常に大きく外に張り出すタイプで、特にかみ締めると大きく膨らむのを確認。結局ボートックス注射で、えらの筋肉を目立たないようにする治療を開始。毎回片側20単位を注射。注射後1週間くらいでかみ締める力がすこし減少しているのを確認。その後、いままであった歯軋りがなくなったと報告、さらにえらの筋肉が徐々に薄くなっていくことにも気づく。この患者さんは実は軽い顎関節症があり、えらから側頭部にかけて鈍痛がありましたが、それもボトックス使用後かなり軽減したとのこと。
患者さんD: 40代女性。グラフィックデザイナー。普段から頑固な肩こりがあり、とくに長時間コンピューターに向かって座っていると肩から首、そして後頭部に走るずきずきとした頭痛を訴えて、以前は理学療法も受けていた。この患者さんの場合、マッサージ療法にも通っていただき、同時に後頭部の筋肉に、片側15単位のボトックスを注射。いわゆる緊張型の頭痛は、かなり軽減したと報告。
ボトックス注射と頭痛の予防
これまで欧米では、ボトックスが頭痛の予防にも効果があるという発表が、いくつもなされています。前述のアメリカのブリン博士やシルバースタイン博士の報告によると、ボートックスは片頭痛の頻度も程度もともに減少させる(予防的に)ことができると発表しています。とくに後者の発表では、25単位というごく少量のボトックス注射で効果があったとしています。ただし、その報告では、注射部位に特徴があり、トリガーポイントという痛みを引き起こしていると考えられる部位に、選択的に治療をすることが大切だとしています。これ以外にも、筋緊張性の頭痛に関して、信頼性の高いプラシーボを用いた2重盲検法による治験も、やはりアメリカで行われていますが、統計的に有意な予防効果を認めています。
ではどういう患者さんが、そうしたボトックスの予防治療を受けるべきか、というガイドラインはまだありません。ただ、欧米のいくつかの研究グループは、大体以下のような案をだしています。それは、慢性片頭痛の患者さんの場合、一月に15日以上発作があって、しかも3ヶ月以上そういう状態が続き、他の治療方法が効かないか副作用のために使えない場合、明らかに筋緊張性頭痛が頻繁にあって、それがどの筋肉の緊張によるものであるか予測可能な場合などです。それから、忘れてならないのが、ボトックスによる予防治療を始める前に、医学的な治療以外にも予防に役立つことは行い(ストレスを減らすなど)、また他の薬物によって、頭痛の頻度や程度が悪くなっていないことが前提となります。
ボトックスの使用方法
前にも述べましたが、まず患者さんの頭痛がいわゆる症候性のものではないことが条件となります。症候性というのは原因がはっきりしている頭痛で、脳腫瘍、出血、感染症、炎症などによるものにはボトックスは使えません。簡単に言えばまず正しい頭痛の診断を脳外科医や神経の専門医にまずしてもらい、できれば現在広く使われている既存の治療方法でまず治療を受けてください。それにもかかわらず片頭痛や緊張型頭痛が頻発する場合、ボトックスによる治療を考えてみてもよいでしょう。
さて、ボトックスを頭痛の治療に用いる際の一般的な施術部位には、眉間(Procerus, Corrugators)、前頭部、側頭部、そして後頭部があります。実際の打ち方は、これらの部位に決められた量を部位を限って注射する場合(部位限定型)と、筋緊張性頭痛のような場合、痛みの走行に沿って注射をする方法もあります。1回の治療で使用するボトックスの量は報告によってまちまちなのですが、大体25から100単位くらいというのが一般的のようです(報告によってはより大量の治療例もある)。
部位限定型の治療の場合、症状が片側だけであっても、注射は両側に行われるのが一般です。これは注射部位に関連して、表情筋の一部が同様に麻痺するので、片側だけ治療すると顔の表情に左右差が出来たりして、美容上問題が起こるからです。こうした治療でターゲットとする筋肉は、Procerus,
corrugator, 前頭筋、側頭筋となります。痛みの走行に沿って注射する方法は、患者さんに実際にどこが痛いですか?と聞いて治療したり、首や肩あるいは額関節を触診しながら、痛みのスポットを探しつつ治療する方法です。これらの具体的な部位には、前頭部、側頭部、および後頭部の筋肉、trapezius,
splenius capitus, suboccipital, そして後頸部の筋肉などがあります。
患者さんが病歴上、片頭痛があって治療(予防)を希望される場合、部位限定型の治療方針がよいでしょう。もし、そうした患者さんに、痛みに沿った方法でのみ治療すると、美容上表情に左右差が起こったり、頭痛の部位が、いままで治療したことがない部位へ移動したりすることがあるからです。
もし患者さんが、筋緊張型の頭痛のみもっていると判断される場合、痛みに沿って注射する方法が用いられます。この場合でも前頭部へ注射する場合は、美容上の左右差に十分注意して治療する必要があります。側頭筋、後頭筋、splenius,
後頸部の筋肉などでは、左右差はあまり問題にならないでしょう。首や肩の筋肉へ注射する場合は、うちすぎないように注意します。さもないと、治療部位の筋力が落ち、それが原因でまた違った痛みが発生することがあります。首のジストニアという状態がある患者さんの場合は、神経内科や脳外科の専門医のもとでの治療が望ましいと思います。
緊張型頭痛のなかでも痛みの走行が指で触れる患者さんやトリガーポイントがある方は、ボトックスがよく効くタイプだといわれています。また発症してから経過の短いタイプも、予後はよいと言われています。ただし、前のオハイオのベーマンド博士の報告にもありますように、眉間の筋肉1箇所だけの注射でもかなりの効果を示すことがあるようですので、本当の意味で、どういう注射の仕方がよいのかは、今後の課題だと言えそうです。
そして、長期的な治療の展望なのですが、いくつかの論文によりますと、何度も繰り返し治療をしている患者さんの方が、治療効果が高まっていくという事実が、アメリカ各地で報告されています。ただし最終的な治療指針は、今後アメリカで大規模な臨床治験が終了するまでは、まだ確立していないのかもしれないということも、付け加えさせていただきます。
当クリニックの専門医
当クリニックの専門医は、形成外科医であると同時に、アメリカで脳神経外科の専門医過程(レジデンシー)を修了した数少ない医師です。過去には、アメリカで、多くの脳腫瘍患者や複雑な頭痛の患者のケアーに携わってきた経験があります。
現在、アメリカでは、片頭痛の治療にボトックスが使われています。ボトックスは、もともとアメリカでは形成外科医のところで、美容目的で治療に用いられることが多かったこともあり、注射自体は形成外科医のほうが慣れています。しかし、形成外科医は、脳外科や神経内科の知識があまりないのが普通です。
当クリニックの専門医は、アメリカで脳神経外科と形成外科の専門医教育を受けたという、ユニークなバックグランドを持っており、頭痛の解析も治療にも豊富な経験を有しています
















